商品数が増えるにつれて、手作業での管理には限界が訪れます。その結果、機会損失を招く「欠品」や、キャッシュフローを圧迫する「過剰在庫」といった問題が深刻化しがちです。
こうした課題は、エクセル(Excel)を活用することである程度解決できます。特にEC事業を立ち上げたばかりで出荷件数がまだ少ない段階では、専用システムを導入する前に、まずはエクセルで在庫管理体制を構築するのがコストの面でおすすめです。
本記事では、エクセルを活用した在庫管理表の作り方から、実務で使える便利な関数、運用を成功させるポイントまでを詳しく解説します。
この記事の結論
- メリット・デメリット: 低コストで導入しやすいが、大規模管理やリアルタイム更新には不向き。
- 効率化の鍵:
SUMIF関数やVLOOKUP関数を活用して、在庫計算を自動化する。 - 運用のコツ: 「運用ルールの策定」と「バックアップ体制」が、ミスを防ぐ最大の防御策。
エクセルで在庫管理するメリットとデメリット
エクセルによる在庫管理は、今でも採用されている王道の手法です。自由度が高くコストを抑えられる一方で、特有の弱点も存在します。エクセルでの在庫管理を行う前に、まずはメリットとデメリットを理解しておきましょう。
メリット:低コストかつ高い操作性
初期費用を最小限に抑えられる: Microsoft Officeを導入済みであれば追加投資は不要です。仮に未導入でも、Microsoftアカウントがあれば無料で利用できる「Excel Online」で代替可能です。
教育コストがかからない: 基本的な操作は多くのビジネスパーソンが習得しているため、特別な研修を行わずに運用を開始できます。
共有とバックアップが容易: クラウドストレージ(OneDriveやSharePoint)を活用すれば、複数人での同時編集やバックアップの自動作成も簡単です。
デメリット:規模拡大に伴うリスク
大規模管理には不向き: 数千点を超える商品数や複数拠点での管理になると、ファイルの動作が重くなり、フリーズやデータ破損のリスクが高まります。
リアルタイム性の欠如: 入力は手動で行うため、実際の在庫状況とデータに必ずタイムラグが生じます。特にECサイトと実店舗を併売している場合、二重計上のミスが起きやすくなります。
【タイプ別】エクセル在庫管理表の作り方
管理する商品の特性や業務フローに合わせて、最適な形式を選びましょう。今回は代表的な2つの作成方法を紹介します。
単票タイプの作成方法
単票タイプは、1つの商品専用の在庫管理表として使用する形式です。 シンプルな構造で作成が容易なため、初めて在庫管理表を作る方に適しています。
まず、A列に「品番」「カラー」「サイズ」「日付」「繰越残高」を順番に入力します。 次に、B1〜B3セルに商品の情報を記入し、B4からF3セルには「入庫」「出庫」「残高」「担当者」「備考」の項目を配置してください。 D5セルの「繰越残高」に前月末の在庫数を入力した後、D6セルに「=D5+B6-C6」という関数を設定します。
この関数をD7セル以降にコピーすれば、入出庫に応じて残高が自動計算される仕組みが完成します。 関数をコピーする際は、セルの右下角をドラッグするだけで簡単に複製可能です。

在庫移動表タイプの作成方法
在庫移動表タイプは、複数商品の在庫を一元管理する際に活用されます。 全体の在庫状況を俯瞰できる点が特徴です。
A1からC1セルに「品番」「カラー」「サイズ」を入力し、E1とF1には「合計」「繰越残高」を配置します。 G1以降の列には日付を入力し、3つほど手入力した後は右下の角をドラッグすると自動入力されます。 D列にはサイズごとに「入庫」「出庫」「残高」を記載し、F4のような「繰越残高」欄には先月の在庫数を入力してください。
G列には「=F4+G2-G3」の関数を設定し、他のセルにコピーすることで、日々の残高が自動反映される表が完成します。 この形式は複数商品を扱う場合に、一覧性が高く管理しやすい構造となります。

在庫管理表の項目設定は、業務の効率性を左右します。
基本的な項目として、商品名、商品番号、入庫日、入庫数、出庫日、出庫数、繰越数、在庫数が挙げられます。 食品を扱う場合は賞味期限、複数倉庫を持つ場合は保管場所の項目も必要でしょう。 在庫区分を設けることで、通常在庫と不良在庫を分けて管理できます。
取り扱う商品や事業形態によって必要項目は異なるため、自社の業務フローに合わせたカスタマイズが求められます。 項目が多すぎると入力が煩雑になるため、本当に必要な情報だけに絞り込むことが大切です。
在庫管理に便利なエクセル関数
エクセルの関数を活用すれば、在庫計算の自動化が実現します。 一度設定すれば継続的に使用できるため、業務効率が大幅に向上するでしょう。
| 関数名 | 用途 | 活用例 |
|---|---|---|
| SUMIF | 条件付き集計 | 商品ごとの入庫・出庫の合計を自動算出する |
| VLOOKUP | データの自動抽出 | 商品コードを打つだけで商品名や単価を呼び出す |
| IF | 条件分岐 | 在庫が一定数を下回った際に「要発注」とアラートを出す |
| ROUND | 端数処理 | セール価格や卸価格の算出時に小数点以下を処理する |
特にIF関数と「条件付き書式」を組み合わせるのがおすすめです。
在庫が少なくなった行を自動で赤く塗りつぶす設定にすれば、発注漏れを視覚的に防げます。
その他の実用的な関数
PRODUCT関数は、複数の数値をまとめて掛け合わせる計算を実行します。 「定価×数量×卸率」といった複雑な計算を一度に処理できるため、見積書作成時に便利です。
ROUND関数は、小数点の数値を四捨五入し、指定した桁数に表示する機能を持ちます。
ROUNDUPは切り上げ、ROUNDDOWNは切り捨てを行うため、セール価格の算出に活用できます。
MID関数は商品番号の一部を抽出する際に、LEFT関数とRIGHT関数は文字列の左側や右側から指定文字数を取り出す際に使用されます。 これらの関数を組み合わせることで、より高度な在庫管理が実現できます。
エクセル在庫管理を「失敗させない」運用体制
「作っただけで運用が回らない」のは在庫管理の典型的な失敗パターンです。以下の3つの運用体制を徹底しましょう。
明確な運用ルールを策定する
運用ルールの策定は、在庫管理表を効果的に活用するための第一歩です。 アクセス権限を持つユーザー、入力を行う担当者、入力する時間帯や頻度を明確に定めましょう。 担当者を決めずに運用すると、「誰かがやってくれるだろう」という意識が生まれ、結果的に誰も入力しない事態になる可能性も出てくるでしょう。
操作マニュアルを作成し、入力ルールを設定すれば、誰でも同じ手順で管理表を運用できる環境が整います。 エクセルに不慣れな従業員がセルの関数を誤って削除しないよう、シートの保護機能も活用してください。 入力セルのみ編集可能にし、関数が入っているセルはロックしておくことで、誤操作を防げます。
定期的なバックアップ体制の確保
バックアップの取得は、データ消失リスクへの備えとして不可欠です。 ソフト版のエクセルを使用している場合、パソコン本体が故障するとファイルにアクセスできなくなります。 5年以上使用している古いパソコンでは、突然電源がつかなくなる可能性も高まります。
最悪の場合、倉庫内のすべての在庫を数え直す事態にもなりかねません。 1週間に1回程度の頻度でバックアップを取るルールを定め、円滑な運用を維持しましょう。 外付けハードディスクやクラウドストレージなど、複数の保存先を確保しておくとより安心です。
クラウド版エクセルの活用
マイクロソフトが提供するブラウザ版の「エクセルオンライン」は、無料で利用できるサービスです。 基本機能はソフト版とほぼ同等で、在庫管理表の運用には十分な性能を備えています。 データはクラウド上に保存されるため、パソコンが故障してもファイルにアクセスできる点が大きな利点です。
インターネット接続環境があれば、社外からでもアクセス可能となり、運用の自由度が格段に向上します。 テンプレートも豊富に用意されており、「ファイル」→「新規」→「在庫」で検索すると、すぐに使える管理表が見つかります。 ただし、オフライン環境では使用できないため、インターネット接続が不安定な場所では注意が必要です。
事業成長に合わせて「在庫管理システム」への移行検討も
ここまでエクセルでの在庫管理の方法やその注意点などを解説してきました。しかし、エクセルでの管理には限界があり、ビジネスが成長するとむしろリスクになる場合があります。
以下を参考に、在庫管理システムへの移行を検討すべきポイントを最後に抑えておきましょう。
エクセルからの脱却を検討すべき5つのポイント
- 「在庫のズレ」が日常化している
- 手入力の限界で、帳簿と実在庫が一致しない。原因調査に毎週何時間も費やしている。
- 複数ショップの在庫連動が限界
- ECサイトと実店舗、モール間での更新が追いつかず、売り越し(欠品キャンセル)が発生している。
- 特定の担当者しか管理できない(属人化)
- マクロや複雑な関数が組まれ、作成した本人以外はメンテナンスできない「ブラックボックス」になっている。
- ファイルが重くてフリーズする
- 商品数や行数が増え、ファイルを開く・保存するたびに待機時間が発生し、業務が停滞している。
- 「何がどれだけ売れるか」予測できない
- 今の在庫数はわかっても、過去の推移から「適正な発注量」を導き出すデータ分析ができていない。
LOGILESSの1ヶ月無料トライアルのご検討も
LOGILESSは、EC事業に必要な受注管理機能や在庫管理機能、倉庫管理機能を1つのプラットフォームで提供するSaaS型のプロダクトです。導入いただいた企業様に評価いただいている点は下記になります。
- ECと倉庫との「在庫のズレ」が発生しづらい
- LOGILESSの在庫管理システムはECの在庫と自社や委託先倉庫の実際の在庫を連携しているため、他のシステムと比べても在庫のズレが発生しづらいです。
- ShopifyやTiktok Shopなど複数のECサイトやECモールとの連携が可能
- 主要なECサイトやECモールはもちろん、送り状発行システムなど様々なツールとの連携が可能です。また、”LOGILESS API”を活用することで、自社の基盤システムや分析システムとの連携もできます。
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- 月間出荷件数が20万件以上の案件も
- システムを導入しても出荷件数が増えると動作が重くなるという場合があります。スピードについては明確な比較が難しいものの、以前のシステムよりもサクサク動くという評価をいただくことが多く、実際に出荷件数が多い案件も稼働中です。
- 強力な自動化機能で90%以上の手作業を自動化
- エクセルでの在庫管理や出荷指示など手作業での業務を大幅に効率化し、90%以上の出荷を自動化します。そのため、エクセルでの手作業に費やしていた時間を別の業務に活用することができるだけでなく、属人的な作業によるミスの抑制にも繋がります。
まとめ
エクセルでの在庫管理は、コストを抑えつつスピーディーに体制を構築できる非常に有効な手段です。まずは本記事で紹介した関数や構成を参考に、自社に最適な管理表を作成してみてください。
もし、「商品数が増えて管理が追いつかなくなってきた」「入力ミスによる欠品が怖い」と感じ始めたら、それは事業が順調に拡大している証拠です。その段階で、さらなる効率化を目指してシステムの導入を検討すると良いでしょう。


