実は在庫管理の方法に悩んでいる事業者は少なくありません。高額なシステム導入は難しいものの、紙やメモだけでは限界を感じている方にとって、Googleスプレッドシートは有力な選択肢となります。本記事ではスプレッドシートを活用した在庫管理の基本から、実践的な運用方法、さらには注意すべきポイントまで、わかりやすく解説します。
この記事の結論
- スプレッドシートは無料で利用でき、複数人でのリアルタイム共有が可能です。
- 関数やマクロを活用することで、在庫管理の自動化を実現できます。
- データ量や業務規模によっては、専用システムへの移行を検討する必要があります。
スプレッドシートを使った在庫管理とは
Googleスプレッドシートは、クラウド上で動作する無料の表計算ツールです。在庫管理に活用する場合、商品リストや在庫数、入出庫日、担当者などの情報を一元管理できます。オンライン環境があれば、パソコンやタブレット、スマートフォンなど端末を問わずアクセス可能であり、業種や規模を問わず導入できる点が強みです。
単票タイプの特徴
単票タイプは「吊り下げ札タイプ」とも呼ばれ、1つの商品につき1つのシートで管理する形式です。日付、入出庫の種別、数量、残高、担当者といった項目を時系列で記録するため、個別商品の動きを詳細に把握できます。基となる残高に入庫数を加え、出庫数を引く数式を設定すれば、常に最新の在庫数が自動計算されます。
ただし、商品数が増えるとシートの管理が煩雑になる点には注意が必要です。単票タイプは商品数が少ない場合や、特定商品の詳細な動きを追跡したい場合に向いています。
在庫移動表タイプの特徴
在庫移動表タイプは、複数の商品を1つのシート上で横並びに管理する形式です。商品名を縦軸に並べ、日付や入出庫数を横軸で展開することで、複数商品の在庫状況を一覧で確認できます。VLOOKUP関数を活用すれば、商品マスタから自動的に商品情報を引用し、入力の手間を大幅に削減することも可能です。
商品数が多い場合や、ピボットテーブルを使った多角的な分析を行いたい場合に適しています。全体的な在庫状況を俯瞰したい事業者にとって、在庫移動表タイプは有効な選択肢です。
エクセルとの違い
スプレッドシートとエクセルは、どちらも表計算ソフトとして在庫管理に利用できます。大きな違いは、スプレッドシートがクラウドベースである点です。エクセルはソフトウェアのインストールが必要であり、ライセンス費用がかかる一方、スプレッドシートはGoogleアカウントさえあれば無料で利用できます。
また、スプレッドシートはOSを問わず動作するため、端末の種類に制約されず、複数ユーザーでの同時編集もスムーズに行えます。ファイルの共有やバージョン管理の面でも、スプレッドシートには高い優位性があります。
スプレッドシートで在庫管理をするメリット
スプレッドシートを在庫管理に活用するメリットは、無料で利用できる点だけでなく、リアルタイムでの情報共有や自動化機能にあります。
無料で利用でき導入コストがかからない
Googleアカウントを作成するだけで、スプレッドシートはすぐに活用できます。在庫管理システムや有料アプリの場合、初期費用や月額料金が発生するケースが多いですが、スプレッドシートであればコストを抑えられます。ソフトウェアのインストールや環境構築も不要で、ブラウザからアクセスするだけで使い始められます。
ネット上には無料のテンプレートも多数配布されており、自社のニーズに合わせてカスタマイズすることも可能です。予算に制約がある状況でも、すぐに在庫管理を始められる環境が整っています。
複数人での同時編集とリアルタイム共有
スプレッドシートは、複数のユーザーが同時に1つのシートを編集できる点が大きな特長です。倉庫担当者が入出庫データを入力すると、経理担当者や経営者もリアルタイムで最新の在庫状況を確認できます。エクセルの場合、ファイルをメールで共有すると複数バージョンが発生し、どれが最新かわからなくなる問題が起こりがちです。
スプレッドシートなら常にクラウド上の1つのファイルを参照するため、バージョン管理の煩雑さから解放されます。共有設定も簡単で、メールアドレスを指定するだけで特定のユーザーにアクセス権限を付与できます。
関数やマクロによる自動化
スプレッドシートでは、SUMIF関数やVLOOKUP関数を活用することで、在庫数の自動計算や商品情報の自動引用が可能です。Google Apps Script(GAS)というスクリプト言語を使えば、在庫が一定数以下になった際の警告メール送信や、データの自動更新といった高度な自動化も実現できます。マクロ記録機能を使えば、複雑なコードを書かなくても、一定の作業を自動化できます。
スプレッドシートで在庫管理をするデメリット
無料で取り組みやすいスプレッドシートですが、利用する上でのデメリットも存在します。
入力ミスが発生しやすい
スプレッドシートへのデータ入力は基本的に手動で行うため、誤入力のミスが起こりやすくなっています。在庫管理システムであればバーコードで自動登録できますが、スプレッドシートでは直接入力するか、Googleフォームなどを作成して入力する必要があります。関数や計算式を誤って削除してしまうリスクもあり、在庫数が合わなくなる事態につながる恐れがあります。
こうしたミスを防ぐには、入力後の二重確認や複数人でのチェック体制が不可欠です。セルの保護機能を活用し、関数が入っているセルを編集不可にしておくことで、誤操作のリスクを軽減できます。
データ量が増えると処理速度が低下
データ量が増加すると、スプレッドシートの処理速度が遅くなったり、エラーが発生したりする可能性があります。数千行を超える大規模なデータを扱う場合、操作に時間がかかり、業務効率が低下するリスクがあります。関数やマクロを多用している場合は、計算や更新に負荷がかかり、動作が不安定になることもあります。
そのため、不要なデータを定期的に削除したり、別のファイルに移動したりする管理が必要です。月次や年次でアーカイブファイルを作成し、現在使用しているファイルのデータ量を一定以下に保つ工夫が求められます。
関数やマクロの知識が必要
スプレッドシートを効率的に活用するには、関数やマクロの使い方を理解していなければなりません。SUMIF関数やVLOOKUP関数、IF関数といった基本的な関数を使いこなせないと、手動での作業が増え、かえって手間がかかってしまいます。自社に関数やマクロに詳しい社員がいない場合、教育コストが発生する可能性もあります。
スプレッドシートで在庫管理を効率化する方法
スプレッドシートを使った在庫管理を成功させるには、運用ルールの設定や適切な関数の活用が欠かせません。
運用ルールの設定
スプレッドシートは更新履歴から変更内容を確認できますが、すべての変更点を追跡するのは困難です。そのため、明確な運用ルールを設定する必要があります。「在庫変動があるたびに即座に更新する」「編集権限を持つ人を限定する」といったフローを確立させます。
また、毎週決まった時間にデータに誤りがないかチェックする体制を整えることで、ミスの早期発見につながります。ルールを文書化し、全員が閲覧できる場所に保管しておくことも大切です。
必須関数の活用
在庫管理に最低限必要な関数として、条件に一致するセルの合計値を求める「SUMIF関数」、指定したキーに対応する値を返す「VLOOKUP関数」、条件によって異なる値を返す「IF関数」があります。これらを組み合わせることで、入出庫別に在庫数を集計したり、在庫数に応じて警告を表示したりすることが可能です。
ピボットテーブルでデータ分析
ピボットテーブルは、データを集計・分析する強力な機能です。データの行や列を自由に入れ替え、商品別や期間別に在庫数や入出庫数を集計できます。
ピボットテーブルはデータが増えても自動的に更新されるため、手動で集計し直す手間がかかりません。複雑な関数を組まなくても、ドラッグ&ドロップの簡単な操作で多角的な分析が行える点が魅力です。
在庫管理システムとスプレッドシートの比較
業務規模や取扱商品数が増えてくると、スプレッドシートでは対応しきれない場面が出てきます。
費用はかかってしまいますが、事業が拡大してきたら在庫管理システムを導入することを検討することをおすすめします。
入出荷登録の違い
スプレッドシートは手入力が基本となるため、入力ミスや漏れが発生しやすくなります。一方、在庫管理システムはバーコードやQRコードを読み取るだけで登録が完了するため、正確かつスピーディーに作業を行えます。
在庫確認と共有の違い
スプレッドシートはURLで簡単に共有できますが、ファイルをコピーやダウンロードしてしまうと、最新の情報がどれかわからなくなるリスクがあります。 在庫管理システムであれば、常に一つのデータベースを参照するためバージョン管理の心配がありません。また、複数の倉庫や店舗の在庫も簡単に一元管理でき、ユーザーごとに細かな閲覧・編集権限を付与できます。
操作性とサポート体制の違い
スプレッドシートを在庫管理に使う場合、自社の運用に合わせて自分でカスタマイズしなければなりません。不具合が起きた際も自力で解決する必要があります。在庫管理システムは専用のインターフェースが用意されており、メニューに沿って設定するだけで運用を開始できます。また、導入支援やトラブル時のサポート体制が整っている点も大きな違いです。
まとめ
スプレッドシートは無料で始められ、関数やピボットテーブルを使った自動化も可能な優れたツールです。リアルタイム共有ができるため、小規模な事業者にとって導入しやすい選択肢といえます。
一方で、手入力によるミスや、データ量増加による速度低下には注意が必要です。出荷件数が月間200件を超える規模であれば、在庫管理システムへの移行を検討するタイミングです。自社の業務規模や予算に応じて、最適なツールを選択しましょう。

