「ラストワンマイル」という言葉を耳にしたことはあっても、正確な意味をつかみきれていない方は少なくないでしょう。この概念は物流・交通・通信など複数の分野にまたがって使われており、分野ごとに課題の性質が異なります。本記事ではラストワンマイルの定義から各業界が抱える課題、国の施策や技術的な解決策までわかりやすく解説します。
この記事の結論
- ラストワンマイルとは、商品やサービスが最終拠点から生活者の手に届く「最後の区間」を指す概念である
- 物流・交通・機器設置の各分野で人手不足と非効率化が深刻な課題となっている
- 宅配ボックスの普及・ドローン配送・MaaSなど、技術と制度の両輪で解決策が進んでいる
ラストワンマイルとは?
ラストワンマイルの概念と語源を解説します。
言葉の由来と定義
ラストワンマイル(英語:Last One Mile)は、直訳すると「最後の1マイル」です。「最終物流拠点からエンドユーザー(生活者)に物・サービスが到達する、物流サービスにおける最後の接点」と定義されています。
距離の長さそのものを表すのではなく、商品やサービスが消費者に届くまでの最終プロセスを意味する点が大切です。
語源はIT・通信業界
もともとはIT・通信の世界で使われていた用語で、「生活者や企業に対して通信接続を提供する最後の区間」を意味していました。インターネット回線が各家庭に引き込まれるまでの最終配線区間が、その典型的なイメージです。
現在では物流・交通・機器設置など幅広い業界に概念が広がり、日本でも広く認知されています。
物流における使われ方
物流領域では、配送センターや物流倉庫から個人宅・店舗へ荷物を届ける最後の工程を指します。この区間は自動化が難しく、人の手に頼る部分が多く残っているため、コスト・効率・労働環境の観点からとりわけ注目されています。
EC(ネット通販)市場の拡大により配送需要が急増し、課題の重要性はますます高まっている状況です。
ラストワンマイルの現状|宅配便と再配達のデータ
最新の統計データをもとに現状を見ていきましょう。
宅配便取扱個数の推移
国土交通省が2025年8月に公表したデータによると、2024年度の宅配便取扱個数は50億3,147万個(前年度比+0.5%)となり、10年連続で過去最多を更新しました。
2014年度(36億1,379万個)と比較すると、約1.4倍規模まで増加しています。配送需要の増加が配送現場の負担を押し上げており、持続可能な物流体制の構築が急務です。
再配達率の実態
国土交通省が2025年12月26日に公表した最新データによると、2025年10月時点の宅配便再配達率は約8.3%です。
前年同月(2024年10月)の9.0%から0.7ポイント改善しており、宅配ボックスや置き配の普及が一定の効果を上げています。ただし、政府が「総合物流施策大綱」で定めた2025年度目標の7.5%程度にはまだ届いておらず、引き続き削減に向けた取り組みが必要です。
| 調査時点 | 再配達率 |
| 2018年4月(コロナ禍以前) | 約15.0% |
| 2019年4月 | 約16.0% |
| 2022年10月 | 約11.8% |
| 2025年4月 | 約8.4% |
| 2025年10月(最新) | 約8.3% |
| 政府目標(2025年度) | 7.5%程度 |
2019年4月の16.0%から、2020年のコロナ禍(外出自粛による在宅率上昇)により一時的に急減した後、反動で再上昇しました。2022年以降は宅配ボックスや置き配の普及を背景に再び低下傾向となっています。
2024年問題が与えた影響
2024年4月に施行された時間外労働上限規制により、1日に運べる荷物量の削減やドライバー収入の低下が生じ、担い手不足がさらに加速することが懸念されています。
| 項目 | 内容 |
| 施行内容 | 働き方改革関連法によるトラックドライバーの時間外労働上限規制(年960時間)の適用 |
| 主な影響 | ドライバー不足の顕在化・輸送能力の低下・運賃高騰 |
| 懸念される課題 | ドライバーの高齢化進行と人材確保の難化 |
単純に人手を増やすだけでは構造的な解決にならず、物流の効率化・自動化・共同配送の推進が不可欠です。矢野経済研究所の調査では、2024年度のラストワンマイル物流市場規模は前年度比105.5%の3兆900億円に拡大しており、市場としての重要性も高まっています。
各業界が抱えるラストワンマイルの課題
ここでは、物流・交通・機器設置の3分野における課題を見ていきましょう。
物流業界の課題
倉庫管理や発送工程ではロボットによる自動化が進んでいます。しかし、配送物を各顧客宅へ届ける最終段階は依然として人力に依存しており、効率化の余地が大きく残っています。
時間指定・個別配送の増加が配送効率を低下させ、燃料費・人件費の上昇と相まって企業収益を圧迫している状況です。
交通業界の課題
過疎地域における移動手段の確保、高齢者の運転問題、都市部の交通渋滞削減など、人の移動に関するラストワンマイルも深刻な課題として認識されています。廃線や路線バスの縮小が続く地方では、病院や買い物へのアクセスが困難になるケースが増えており、社会的な影響は大きいといえます。
交通インフラの維持と持続可能な移動手段の確保は、地方創生とも密接に結びついています。
機器設置業界の課題
AIやIoTデバイスを活用した超スマート社会(Society 5.0)の実現には、大量の機器をフィジカル空間へ設置する作業が欠かせません。機器メーカーは製品開発のプロフェッショナルである一方、設置・施工のノウハウを持ち合わせていないケースが多く、担い手不足が障壁となっています。
電気通信工事業界でもIT投資の優先順位が低い傾向にあり、DX対応の遅れが指摘されています。
ラストワンマイルの解決策|技術と仕組み
ここでは、最新技術と受取方法の工夫による解決策について見ていきましょう。
テクノロジーを活用した配送革新
| 技術 | 概要 | 期待される効果 |
| ドローン配送 | 山間部・離島など配送困難地域への空路配送 | 配送時間の短縮・人手不足の補完 |
| 配送ロボット | 集合住宅・市街地での自律走行型配送 | 夜間・無人配送の実現 |
| 自動運転車 | ラストワンマイル区間への自動運転技術の応用 | ドライバー依存度の低減 |
日本郵便は2021年12月1日より、東京都西多摩郡奥多摩町においてドローンと配送ロボットを連携させた荷物配送の試行を実施しました。
ドローンから配送ロボットへ荷物を受け渡し、ロボットが受取人宅まで届けるというモデルで、中山間地における省人化配送モデルの検証が目的です。国土交通省の国土交通白書(令和5年版)でも、この取り組みは先進的な事例として紹介されています。
宅配ボックス・置き配・受取サービスの活用
再配達を減らす手段として、宅配ボックスの設置、コンビニや駅での荷物受取サービス、置き配の活用が広まっています。国土交通省の調査によると、2025年10月時点の再配達率は都市部で9.5%、都市部近郊で7.7%、地方で6.7%となっており、地方での改善幅(前年同月比1.4ポイント減)が3エリア中で最も大きかったことが確認されているそうです。
受け取り側の行動変容が配送現場の負担軽減に直結するため、消費者への周知と利便性向上が引き続き課題といえるでしょう。
MaaSによる移動・物流の統合
MaaS(Mobility as a Service)とは、複数の公共交通やその他の移動サービスを一括で検索・予約・決済できる次世代移動サービスの概念です。交通分野では、タクシーや自転車シェアリング、乗合タクシーなどを一元管理することで、過疎地の移動問題や都市の渋滞緩和に効果を発揮します。
物流分野でも、交通事業者とデータを共有することで最適ルートの選定や配送マッチングが可能になると期待されており、労働環境の改善にもつながると考えられています。
国・行政の取り組み
ここでは、政府が進める施策と目標を見ていきましょう。
ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会
国土交通省は2025年6月に「ラストマイル配送の効率化等に向けた検討会」を設置し、有識者・物流事業者・EC事業者・地方自治体など多様な関係者で計5回の議論を重ねました。
2025年11月7日に取りまとめた提言では、「多様な受取方法のさらなる普及・浸透や宅配サービスのあり方の変革」「地域の物流サービスの持続可能な提供に向けた環境整備」「地域の配送等における新たな輸送手段の活用と次世代産業としての展開」という3つの観点から施策の方向性が示されています。
この提言をもとに、制度整備と技術実装が今後具体化されていく見通しです。
政府が掲げる再配達率削減目標
国土交通省と経済産業省は「総合物流施策大綱」において、宅配便の再配達率の削減目標として「2025年度7.5%程度」を設定しています。
直近の2025年10月時点では8.3%まで低下しているものの、目標値の7.5%程度にはまだ達していない状況です。
両省は宅配ボックスや置き配の普及促進、消費者の行動変容への働きかけを継続しており、目標達成に向けた取り組みは続いています。
物流DXと今後の制度整備
物流業界はこれまでIT投資の優先順位が低く、荷主や倉庫を含む関係先とのシステム統合が進んでいませんでした。2025年11月の検討会提言では、配送伝票などの標準化を通じた配送業務の効率化・簡素化も方向性として明示されており、業界横断での標準化推進が課題解決の鍵とされています。
デジタルを活用した共同配送プラットフォームや配送管理システムの導入が進むことで、ラストワンマイルの効率は大きく改善する可能性があるといえるでしょう。
今後の展望と注目すべきポイント
将来的な課題と解決の方向性を解説します。
人口減少・高齢化との関係
ラストワンマイルの課題は、物流だけにとどまりません。総務省の調査でも示されているように、過疎化・高齢化が進む地域では地域公共交通の確保が深刻な問題となっており、移動手段の喪失が生活の質に直結します。
物流・交通の双方にまたがる形で「最後の届け」をどう維持するかが、地域社会の持続可能性を左右する問題です。
都市部と地方の課題格差
ラストワンマイルの課題は、地域によって様相が異なります。都市部では交通渋滞・駐車スペース不足・マンション配送の非効率が問題となる一方、地方では配送網の維持そのものが困難になりつつあります。
2025年10月調査でも、再配達率は都市部9.5%に対し地方6.7%と大きな差があり、地域特性に合わせたきめ細かな対策が求められるでしょう。

消費者の行動変容が解決の鍵
テクノロジーや政策の整備と並行して、消費者の行動変容も課題解決の重要な要素です。置き配の積極的な活用、宅配ボックスの利用促進、時間指定の見直しなど、受け取り側の小さな工夫が現場の負担を大きく変えます。
物流の持続可能性は、事業者・行政・消費者が三位一体で取り組むことで初めて実現できるといえます。
まとめ
ラストワンマイルとは、商品やサービスが最終拠点から生活者の手に届くまでの最後の区間を指す概念です。2024年度の宅配便取扱個数は50億3,147万個と10年連続で過去最多を更新する一方、配送現場では人手不足と非効率化が深刻化しています。
政府は2025年度の再配達率目標を7.5%程度と設定し、2025年11月には国土交通省の検討会が具体的な提言を取りまとめました。ドローン配送・MaaS・物流DXなど技術革新が進む一方で、宅配ボックスや置き配といった消費者の行動変容も課題解決の鍵となります。
事業者・行政・消費者が三位一体で取り組むことで、持続可能なラストワンマイルの実現が期待されるでしょう。

